40代からの博士課程留学

41歳でオーストラリア・メルボルンで博士課程留学(社会学)を始めた自分、現地小学校に通う子供のこと、家族での海外生活などを綴る。2023年3月帰国、フルタイムで働きながら博論執筆中。

Research affiliateに申請、副業色々

前回の記事から間が空きすぎて、どこから書いたら良いか分からないが、今週、久しぶりに指導教官からメールがあった。メールのタイトルはResearch affiliateとなっていた。7月末に提出した博論は10月中旬までには結果が出るだろうとのこと(オーストリアの教授は既に返してくれていて、オーストラリアの方がまだらしい)。

 

先生のメールによれば、PhDがアクセプトされた1か月後に、これまで自由に使えていた大学の色々なリソース(論文データベースへのアクセス、様々な有償ソフトウェアの無償利用、LinkedIn learning、E-mailなど)が使えなくなる。私はまだ投稿論文を書こうとしているから、Research affiliateとして登録することを推奨する、同意するなら生年月日や現住所などの情報を教えてくれ、という内容。

 

これまで周りのPhDの人にPhDの切れ目ってどこなの?と聞いたけど、論文提出後~卒業式までってかなりグレーゾーンのようだな、と感じていた。多くのPhD学生はResearch assistantやチューターをしているので、スタッフとして引き続きメールや各種リソースへのアクセスはできるものと思われるが、私はそうではない。そういう人のためにResesarch affiliateというポジションがあり、給与は発生しないが、代わりに無償で色々使いたい放題、という条件のようだ。ちなみに副指導教官はResearch Associateと言っていた。どっちが正しいのか分からないが、大学のホームページなどでもちゃんと説明がない、よくわからないポジション。

 

私にとって、自分から何も言わないのに、指導教官の方からこのことを教えてくれて本当にありがたいと思った。というのも、投稿論文を書くだけではなく、前回の記事に書いたように、兼業研究者として講演やコラム執筆をしばらく行うので、PhD Candidateの立場ではなくなると、大学に紐づいたタイトルが使えなくて困るな、と思っていたところだった。

 

返信で、ぜひResearch affiliate(もしくはassociate)になりたいと伝え、博士論文の研究をテーマに、機関投資家ファンドマネージャーやアナリスト)向けに60分のレクチャーをすること、10月から半年間、6本分のコラムを執筆することが決まっていると伝えた。とても喜んでくれた。

 

副業①単発レクチャー

機関投資家向けのレクチャーが金曜日にあった。実は引き受けた後は結構気が重くて、なぜかと言うと、私の所属は社会学部でビジネススクールではなく、研究内容としても、企業を取り扱ってはいるが、ファンドマネージャーやアナリストが期待する企業価値(経済的側面)の切り口で話せることが少ないと思っていたから。その点はあらかじめ声をかけてくれた証券会社の方に伝えていて了承を得ていたが、ずっと気になっていた点だった。

 

平日は当然仕事なので、スライドづくりは9月の週末に少しずつ進めた。既に学会発表につかったスライドを膨らませ、参加者のニーズに合うような背景情報や最新情報を入れ込みつつ完成させた。日本に帰国してから、平日は仕事、週末は研究(博論の仕上げ、投稿論文の修正)という生活をしばらく続けていて、最近、ちょっと休みたいなあ、と思うようになっていたこともあり、土日に作業するのは気が乗らない感じだった。今回、かなりの部分、近所のコメダでワークした。週末感を出しつつ、ちょうど良いモードで向き合えた(論文を書くような頭をめちゃくちゃ使う作業は、個人的にはコメダではできないが)。

とあるコメダワーク日、長男はコーヒーゼリー食べながら中間テストの勉強、私はアイスコーヒー片手にプレゼン資料作成

いざ、金曜日の朝。話を始めてみると、まるで空から言葉が降ってくるように、50分間ノンストップで語っている自分がいた。あまりにも自動的すぎて、自分ではない人が話しているような感覚すらあった。ZoomのWebinar形式だったので、参加者側の顔が見えなかったが、セミナーには30名超の方が参加してくれていたようだった。

 

質疑の時間を10分残して終わった。日本だし質問出ないかなあ…と思っていたが、Q&Aボックスにいくつもの質問が投げ込まれていて嬉しかった。質問への回答を行っていたら、セミナーの時間を5分オーバー。最後は主催者の方が、質問はこれで打ち切ります、というほどだった。いただいた質問はどれも面白く、研究してみたいと思うテーマもあったし、私の話が少なくとも何人かの方には響いたんだと分かってほっとした。

 

講演が終わった後には、しばらく経験したことがないような爽快感。アドレナリンが出まくっていた。私、50分ずっと話し続けて、それが楽しいと思える人なんだ、と新たな発見だった。これまで研究のことはほとんど英語でしか話したことがなく、それがどれだけ自分にとって伝える上での足かせになっていたのか、と気づかされもした。このテーマを母国語を自由に操って話す私は、水を得た魚のようだった。

 

夕方になって、主催者の方からメールがあった。「掛け値なしに、非常に面白いお話でした。」と書かれていた。これ以上の誉め言葉ってない。会社員として得たことがない種類の充実感だった。その上、報酬もいただけるなんて。1つ、QAで私が持っていない情報(アメリカのとある産業について)の質問があり、それは調べて後日返すことにした。こういう一つ一つが学びの機会だなと思う。

 

副業②コラム執筆

前回記事に書いたが、とあるカンファレンスでセッションを持たせてくれと掛け合った話から、コラムを書かないかと言われ、その後、企画書を書いて提出。先方の会議で上げてもらい、OKがでた。条件としては「硬くなりすぎないこと」。企画書が硬いと思われたみたい(笑)。10月から始めようと思っているので、そろそろ1本目を書かなくては。

 

そのサイトに他にコラムを執筆しているのは、大学教授を含むベテランが多くて、私だけ経験や肩書で見劣りするが、大事なのは内容!一般ビジネスパーソンや学生にも読んでもらえるよう、研究内容を分かりやすく伝える文章を書く。おそらく1本のコラムを書くのにかかる時間は1時間、修正を入れると2時間くらいじゃないかと思う(博論をベースにしているので、新たに調べることがほとんどないため)。

 

報酬について、運営の方は額が少なくて申し訳ありません、と言われていたけど、1本にかける時間が2時間であれば、今の仕事よりも時給換算で1.5倍くらいと全然悪くない。お金よりも研究者としての立場で、自分が関心があり掘り下げてきたテーマ、考えていることを多くの人に知ってもらえるありがたい機会。

 

趣味の投稿論文

12月締め切りで書くつもりだけど、アイデアだけは頭にあってまだ書き始められていない。もちろん英語での論文執筆だし、コラムと比べて負荷が大きいので、ちゃんと計画して取り組まなくては…。指導教官もそれを期待して、Research affiliateのことを勧めてくれたのだから。本業が会社員の今、投稿論文の執筆は週末に行う趣味になってしまった。論文執筆は報酬が出ないから副業とは呼べない。趣味は論文執筆です、という人に会ったことがないけど、他にこの活動を表す言葉が見当たらない。

 

研究をしたり、それをアウトプットしたり、今回のようにレクチャーしたりするのは、自分に合っていそうだけど、かといって今すぐアカデミックポストを狙うところまで気持ちが高まっていない。そもそも狙って得られるものではない狭き門ということもあるが、給与が今よりも明らかに下がるので、子供にお金がかかる時期に、あえて駆け出し研究者の道に突き進むモチベーションがなかなか湧かない。年収が今と同じくらいならトライしてみたい気もするが、日本ではおそらく教授レベルにならないと釣り合わない。もちろん、すぐに教授になれるわけがないので、もっとずっと低いところからのスタートになる。子供に手もお金もかからなくなるころ(10年後くらい?)、学術の世界にどっぷりと戻れたらなあ…とぼんやり考えている。