40代からの博士課程留学

41歳でオーストラリア・メルボルンで博士課程留学(社会学)を始めた自分、現地小学校に通う子供のこと、家族での海外生活などを綴る。2023年3月帰国、フルタイムで働きながら博論執筆中。

初めての査読完了

前回の記事では転職活動のことを書き、その続編を書きたいと思いながら、一番タイムリーな話題を間に挟むことにする。先ほど研究者人生初めての査読を終えた。なかなか面白い体験だった。査読の依頼についてはこちらの記事に。

 

fourty.hatenablog.com

 

査読について簡単にまとめてみる。

 

ちゃんとした論文だった

まず一読してみて、良くかけた論文だなあ、と思った。どのように良く書けているかというと、構成やデータの示し方がとにかくしっかりしている。ある意味、優等生的な?お手本的な感じがした。これはあまり指摘することがないかもなあ、というのが最初の印象。既にPublishされていてもおかしくないような気もした。書いたのは学生ではなくて、きっとちゃんとした大学の研究者なんだろうなあと。自分の得意なパターンがあって、論文を書きなれている雰囲気がした。

 

著者がほぼ特定できてしまった

経営学のちゃんとしたジャーナル(最新のIF: 8以上)なので、当然ダブルブラインド。だからもちろん、私は自分が査読する論文を書いた人は分からない。テーマが私の研究テーマと近い一方、研究手法は全く異なる。詳しく書くと分かってしまう可能性があるので詳細は伏せる。

 

実は先週、副業の方で投資家の方とのディスカッションがあった。久しぶりだったので、関連する書籍を事前にパラパラと再読していた。その中で、査読中の論文と近い観点の研究の紹介があった。興味を持って、その紹介されていた人を調べてみて、出版された論文を漁っていたら、査読中の論文と書き方の癖がとても似ている(英語表現にも個人の癖ってある)。あれ?ひょっとして本人?そして決め手は研究手法。査読中の論文とまったく同じ研究手法でこれまで何本か論文実績があった。その研究手法はまだ珍しく、やっている人はこの分野では少ない。そうなるとほぼ確定でしょ、これは。実際、査読中の論文でもその著者の論文を3本も引用している。

 

ちなみにその人はアイビーリーグビジネススクールの新進気鋭のアソシエイトプロフェッサー。そりゃちゃんと書けているはずだ(笑)。気になってプロフィールを見たら、40歳以下の若い研究者に与えられる賞を含めて、結構活躍している人みたい。そんなすごい人の論文を、博士号を取得したばかりで、フルタイム研究者ですらないノンネイティブの私が査読しているというのも不思議な世界。きっとPublishされるから、答え合わせは1年後に。

 

足りていない視点を指摘

論文としては優等生的で私がケチをつけることはない。でも何度か読んで気になったのは、研究テーマの設定と結論の位置づけ。大きな研究テーマ(私と同じ)の背景にあるコンテクストと逆行するような、上手く表現できないけど、読み方、使われ方にちょってはちょっと危険な方に転ぶ可能性もある研究内容となっていたので、その大テーマのコンテクストと研究の位置づけについて、また論文の意味や弱い立場にある人に与える可能性があるリスクについてもディスカッションパートで触れるべきというのを一番大きなポイントとして指摘した。著者がその点をどう考えているのか(ひょっとして気が付いていない可能性もあるが)知りたいと思った。一言で表すと、人間をラットか何かのように扱っている論文にも受け取れた。

 

あとは、自分が知っている領域ではすでに研究の蓄積があるテーマなので、それとの関連性(似た部分と異なる部分)を補強する方が良いという点も指摘。やたらと新規性をアピールしているが、類似テーマで似た研究の蓄積はあるので、それを無視するのは良くないと考えた。その他、テクニカルな点を2点指摘。全部で4点の指摘となった。

 

最終判断

100点満点中何点、とつける部分があり、それはまあまあのスコアとしておいた。ジャッジとしては、Moderate revisionにした。Majorと言うほどでもないし、コンテンツに対してコメントをしているからMinorでもない。Moderateというのは自分はもらったことがない判断だけど、今回の内容にはぴったり合う気がした。

 

査読って大変だけど、学ぶことが多い仕事だった。これからどれくらいその経験を積むかは分からないけど、やって良かったと思う。