昨日、日本で所属している学会の総会と理事会が開かれ、その学会の理事に就任することになった。私は100%アカデミアの人間ではなく、今は95%が会社員で研究者としては5%くらいしか活動できていない。でもグローバル企業での専門的な実務経験、海外大学院でのPh.D取得、Q1国際ジャーナルへの複数の論文掲載など、日本で教授や准教授をしている他の先生たちとは全然異なる経験を持っていることが面白いと思ってもらえたようだ(あとは年齢や性別のバランスもあるような気もするが)。
初めて学会の総会と理事会に出席してみて、生徒会やPTAやボランティアの会議と似ていると思った。企業での会議と全然違って興味深い。任期は2年。私がここにどのような貢献をできるのか、まだ未知ではあるけど、推薦してくれた先生の評判を落とさないように頑張ろうと思った。この推薦してくれた先生は、私の指導教官でもないし、出身大学でもない。コロナ禍でオンラインで入った学会の部会で知り合い、それから何かと良くしてくれている。秋からの非常勤講師の仕事もこの先生からの推薦だった。日本でのアカデミアのネットワークを持たない自分が、このような形で参加できることになり、出会いに感謝している。
学会の理事には、メルボルンの大学の研究員の立場で参加することにした。今働いている会社は、社員の副業は承認制で、私は正式なプロセスを経て研究者としての活動を行うことの許可を得ている(主には報酬が発生する非常勤講師について)。その条件として、会社名を出さずに活動することというのがあるため、メルボルンの大学の研究員の肩書に助けられている。この研究員の肩書はおそらく今年中で切れるが、その後は東京の私大の非常勤講師の肩書をアカデミアの自分の肩書として使っていくことになるだろう。何かしら所属組織があった方がやりやすいというのが現実。
こんな複雑なことをしているのは私だけかもしれない。社会人で学会に参加している人もゼロではないけど、民間の研究機関所属だったり、コンサルだったりするので、仕事の延長線上で仕事の肩書を使っている。私の場合、月~金の外資系の会社での仕事は、分野的には同じだが、そこには研究の要素は一切入っておらず100%実務家なので、会社の肩書を使うとややこしいことになる。外資系は意外と日系の会社よりもそのあたりの線引きが厳しく、私の前任者は会社の立場を使って自由に対外発信しすぎたのが理由で、実質クビになったとも聞いている。
2週間ほど前、理事に就任する学会の年1回の研究発表大会に応募していたペーパーが受理され、7月に学会発表をすることになった。理事のことが頭にちらつき、何かしら出しておいた方が良いだろうと思ったのも事実。情報をまとめただけのペーパーではあったが、何とか発表できることになって良かった。研究のアイデアはたくさんあるけど、今は研究に使える時間が無い。本当は海外の学会にも行きたいけど、年休も限られているし、なかなか難しい。
先週、会社でキャリア面談があった。私の直属の上司が3月に退職したので、今の上司は社長。日本語を話さない外国人が自分の上司になるのは初めての経験で、色々と学んでいる。ビジネス経験が豊富な社長とキャリア面談できるなんてなかなかないこと。今の自分の正直な気持ちを話した。
この会社に転職して1年経つが、環境や条件に恵まれていてハッピーであること、自分の専門性や過去の経験を使って会社に貢献できていると思っていること、でもその裏返しとして、あと1年くらいしたら今の仕事に飽きてしまいそうなこと、そうなるとこの会社の中ではもう行き場がないから、あるとしたら海外拠点に行くくらいしか思い浮かばないこと。これらのことを一気に話したところ、社長からもらったアドバイス。
海外の拠点で同じ仕事をすることは出来るし、何ならオーストラリアの仕事も紹介することができる(この社長は日本に来る前はシドニーでオセアニア事業の社長をしていた)。でもそのためには君が何を成し遂げたのか、showcaseできる分かりやすいプロジェクトが1つや2つあることが重要。それがあれば海外拠点に行くことは容易だし、無ければ難しい。だから今やっていることの他に、think outside the boxして、新しいことをしてみたら良い。その為にできるサポートはする。この会社の良いところは、やりたいことがしやすいこと。会社と社会の両方に貢献できることを新しく考えてみて。そうすればしばらく飽きることはないでしょ。情報やアイデアを集めるための出張旅費は出すから、好きなところに行って勉強しておいで。
日本の会社で長年働いてきて、こんなアドバイスは一度ももらったことがないのでとても新鮮だった。日本の会社では、大企業の本社機能だったので、横(他部署)への異動か縦(上位職)への異動を前提にキャリアプランを練っていたが、その前提がないとこんな話になるんだと。今自分がやるべき仕事は大体できているから、それで私の場合は飽きてしまうのだと思う。やるべき仕事をしながら、プラスアルファでやりたい仕事を作り出せたら、その先の未来が開けると聞いて、ちょっと試してみても良いかな、という気になった。
面談後、やってみたいプロジェクトのアイデアがたくさん浮かんできて、難易度、実現可能性、インパクト(会社に対して、社会に対して)などをノートにマッピングしている自分がいた。しばらくは複数のアイデアを並行して走らせて、その中から良さそうなものを見つけ、今年の年末までにプロジェクトをスタートさせることができればと考えている。正直、この面談をするまでは、もう会社員はあと1年くらいかな、という気もしていたが、まだまだやれることがあると知って、楽しみにもなってきた。しばらくは、会社員と研究者?としての活動を並行していくことになりそう。