40代からの博士課程留学

41歳でオーストラリア・メルボルンで博士課程留学(社会学)を始めた自分、現地小学校に通う子供のこと、家族での海外生活などを綴る。2023年3月帰国、フルタイムで働きながら博論執筆中。

3か月の有給休暇

来週から、指導教官が3か月半の有給休暇に入る。コースを開始するときから、9月~10月ごろ、Long service leaveを取ってスペインやポルトガルを周るんだ、という話はちらっと聞いていた。そのことについて私はあまり深く気に留めていなくて、なぜか1か月半くらい休むだけだろう、と勝手に思っていた。しかし今週の月曜日の定例ミーティングで驚愕の事実を知る。ミーティングの最初に全体進捗と今後のスケジュールを共有した際に、指導教官から「私、来週月曜日から11月末までLong service leaveだから、その間は副指導教官に相談してね」と。改めてびっくりしてしまった。つい動揺して「ということは、次あなたと話ができるのは12月ということですか?」と言ってしまった。

 

Long service leaveという言葉を固有名詞のように使うので、ネットで調べてみた。Wikipediaによると、オーストラリアやニュージーランドで一般的な制度のようで、1つの雇用主の元で10年以上働くと通常の年次休暇とは別に3か月の有給休暇を与えられる、というものらしい。指導教官はおそらく3か月のLSLに通常の年休をくっつけて3か月半にしたんだろう。日本の会社も長く働くとリフレッシュ休暇とかあるけど、せいぜい1週間程度。ちなみに私が利用している休職制度は無給。有給で3ヶ月も休めるってすごいなあ。

In Australia and New Zealandlong service leave (LSL) is an employee entitlement to an additional vacation on full pay after an extended period of service with an employer. In Australia, employees are generally entitled to long service leave over and above their annual leave if they work for a particular employer for a certain length of time. A common entitlement in Australia is that employees who remain with the one employer for ten years are entitled to three calendar months' (ninety days) paid LSL,

https://en.wikipedia.org/wiki/Long_service_leave

 

これまで6か月、結構細かく指導を受けていたため、不安に思った。しかし指導教官の立場になってみると、待ちに待ったLSLが2020年のコロナの時期にあたってとても不運でかわいそう。1月に会った時から、9月に妹とスペインを旅行する予定を楽しそうに話していて、海外に行くのは無理そうだと分かってからは、代わりにタスマニアやVictoria州内の国立公園でゆっくりする話をしていたのに、今や自宅から5kmより外に行けない生活。。ひどいね。私だったら休暇をずらすかな、とも思ったけど、よくよく考えてみると、この3か月半の休みを取るために、1年くらいかけて業務の調整をしていたと思われる。

 

例えば、指導教官は200人以上の学生が在籍しているコースワーク修士のプログラムの管理者をしている*1。この立場を他の教官に引き継がないといけない。当然、担当している学部生向けの授業も他の教官にお願いすることになる(確かMBAでもクラスを受け持っていたはず)。LSL取得を前提に、8月から11月にまたがるSemester 2では一つも授業を受け持っていない。その代わり、Semester 1はいつもよりも詰め込んで、忙しくしていたようだ。そういった色々な調整をすべて終えているので、今更時期を動かせないのだろう。

 

私のプロジェクトの進捗は、この半年ひたすら文献を読み、それを整理して文章に書き起こす作業をしてきた。具体的にはLiterature reviewのパート。正直、実務を通じて得てきた知識以上の新しい知識は得ていない。それでは何をしてきたかというと、アカデミアの作法を指導教官から習っていたんだと思う。この話は書くと長くなるので、今は簡単に書くと、自分が十分に知っていることでも、誰かが論文にしていないとアカデミアの世界では事実として認められない。このため、自分が知っていることを書けばよいわけではなく、これまで学者たちが何をどのように主張してきたか、という裏付けを取る必要がある。また、長い実務経験を通じて得ている知識にはバイアスがかかっていたり、事実であっても一般化されにくいことがあったりする。それをそのまま論文に書くことはできない。アカデミアの世界では、どんな主張が誰からされたか、という点を丹念に追って、自分が解き明かすべきだと考えるテーマ(Research question)までのルートを論理的に説明できないといけない。

 

自分にとって指導教官はこの世界(アカデミア)のルールを叩き込んでくれる存在だった。それを無視してやっても良ければ、いくらでも自分で進められるのだが、どの世界もルールを無視した行動は認められない。まず土俵に上がるための作法を知る必要がある。勝手に自己流で進めて、あとでダメ出しされても嫌なので、この2~3か月はかなり慎重に進めていた。そんな中、ガイド役だった指導教官が3か月半の休みに入ることは当然不安に感じる。しかも、これから11月末までにやることは、全体のリサーチデザイン。正指導教官が不在の間、副指導教官がケアしてくれるとのことだが、副指導教官も他に仕事を抱えているわけなので、そんなに細かくはみられないだろう。自律的に進めること自体には不安はないが(むしろ自分が好きなようにどんどん進めたいくらいだが)、それがアカデミアのルールに沿ったものになっているかどうかのチェック機能が低下してしまう点が不安だ。

 

幸い、リサーチデザインについては書籍が何冊も出ている。これらをちゃんと読みながら進めれば、ルール的には間違ったことにならないだろう、と思うしかない。今、私のバイブルになっている本は以下(指導教官からのおすすめ本)。英語も平易で分かりやすく、私みたいな研究初心者向けの入門書としては優れていると思う。これを読んでいると、早く自分のプロジェクトを進めたくなる。さすがにLiterature reviewはもう飽きた。

Designing Social Research: The Logic of Anticipation

 

Literature reviewについては、まだ改善できる点はあるが、今のところはもうこれで良いので次に進むように、と正指導教官からアドバイスをもらっている。今は単純に次のフェーズに行けることが嬉しい。

 

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今週、朝焼けがとてもきれいな日があった。青い空、ピンク色の雲、白い月の組み合わせ

 

*1:Human geographyは社会学部の中で一番の弱小学科だが、指導教官の専門でもあり、私も20年以上取り組んできたテーマであるSustainabilityは、今やコースワークプログラムとしては超人気のテーマになっている。