オーストラリアでは、PhDなどリサーチ課程での大学院留学になると、指導教官候補を見つけてその人にコンタクトをした上で、受け入れOKをもらわないと話が進まないことは、前に何回かに分けて書いた。
私の場合、コネが全くないところから大学のホームページ等を見ながら候補となる先生を絞り込んでいって、メールで連絡を取り、無事受け入れOKをもらえたが、そのやり取りの中で、Skypeでインタビューをしましょう、という提案が先生の方からあった。時期としては、リサーチプロポーザルの書き直しのやり取りをしているころ。
仕事上で海外とのWeb会議にはある程度慣れているが(慣れていても毎回気が重い)、完全に初対面でこれまで何のつながりもない人とSkypeで話をすることには躊躇する。私自身が大学の雰囲気を肌で感じるために、また家族にメルボルンに住むイメージを持ってもらうためにも、ゴールデンウィークの10連休を使って、オーストラリアに旅行することにしていた。5月にオーストラリアに行くので、その時直接会って話がしたい、ということを先生にお願いし、Skypeインタビューは免れた。
日本はゴールデンウィークだが、オーストラリアは通常営業。私が挙げた候補日の中から先生が時間と場所を指定した。その先生は2つのキャンパスで授業を教えている関係で、たまたまその日は私が所属することになる学部があるメインキャンパスではなく、別のキャンパスで会うことになった。また、先生が副指導教官の候補として別の先生を誘ってくれ、当日は3人で先生のオフィスで会うことになった。
仕事やらなんやらで毎日忙殺され、インタビューの準備が全くできないまま、オーストラリアに旅立った。最初の数日はブリスベンで過ごしていたが、だんだん何かを準備したほうが良いような気がして、ブリスベンのスーパーでノートを購入し、ノートに先生に聞かれそうなこと(研究の目的や研究への意気込み、予定など)を書いておいた。また、私から聞いておきたいことも整理しておいたほうが良いと思い、旅行中の朝時間を使ってそのあたりを急遽準備した。
当日は、夫に子供のお守りをお願いし、キャンパスに向かった。15年ぶりに訪れるオーストラリアの大学のキャンパス。私が修士を出た大学とは雰囲気が異なる大学だったが、なんだか懐かしい感じもした。また、大学なのである程度想定はしていたが、20代の若い人が多くいた。打ち合わせの時間まで少し時間があったので、大学のカフェに入り、フラットホワイトを注文して、ノートに書きこんだ自分のメモを見ながら、「また学生になるんだ~」という感慨にふけっていた。
約束した時間ちょうどに先生のオフィスをノック。ホームページに掲載されている顔写真の通りの人だった。年齢は私より10歳くらい年上に見える。とても落ち着いた女性で、最初の挨拶の感じから好感が持てた。予想していたインタビュー(面接)のような形式は全くなく、雑談のような感じでいろいろと話をした。私の方からもだんだんと打ち解けてきて、別に聞く予定がなかったことも色々と会話の中で聞いてみた。
先生との話の内容は大体以下のような感じ。
先生からの質問:いつから研究を始めたいと考えている?
私の回答:特にいつかはまだ決めていないが、子供の学校に合わせて1月が良いと考えている。
先生のコメント:家族が落ち着くまでゆっくり時間をとって始めてもよいかもね。研究の時間以外には家族の時間があるけど、自分自身のために使う時間も必要。
私の質問:PhDコースに入ることになって、毎日の過ごし方はどんな感じですか?指導教官とのミーティングは定期的に行うものでしょうか?
先生の回答:パートタイムの学生もいるし、各々過ごし方は異なる。自分が博士課程に属していた時は月~木に大学に行き研究に集中し、金曜日は自分の時間にしていた。指導教官と学生のミーティングの頻度も人により異なるが、大体2週間か1か月に1度くらい。あなたは社会人が長いので、セルフマネジメントができるはずだから、自分がやりやすい方法で進めてもらってよい。
私の質問:先生は一度に何名の学生をSuperviseしていますか?
先生の回答:私はあまり多く取らない主義で、最大4名と決めている。あなたのほかに来年もう一人希望している人がいて、それでちょうど4人になる。
私の質問:博士課程で一番大変なことは何でしょうか?やはり論文を仕上げる最後の1年でしょうか?
先生の回答:人によって異なるが、私の場合は最初が一番大変だった。あなたと同じように10年以上社会人をやってから大学に戻ったので、実務の世界とアカデミアの世界の違いになじむのに苦労した。また、多くの学生を見ている中で、最初の1年に苦労している人は多い。テーマを決めていたはずなのに、色々と文献を読む中でだんだん違う考えを持つようになり、研究計画が変わったり、自分が何を研究したいのかがぶれてきて迷う人も多い。
といったような感じで、インタビューというよりもお互いの人となりや実際にPhDコースが始まった後のイメージをすり合わせるような感じの会話が多かった。もちろん研究テーマについての話もしたが、これはむしろ雑談の域。最近の動向についてあれやこれやといいたいことをお互い言うような感じ。先生からは、私が入学したら学会にも積極的に参加することを勧めること、この分野の研究者を紹介してくれることなどを話してくれた。
また、PhDのインタビューでよく聞かれる質問である、PhD取得後のキャリアについてどう考えているか、という話も出たが、この先生になら今の気持ちを正直に話したほうが良いと思ったため、「正直、3年経ってみないとそのとき自分が何を感じているかはわからない。休職制度を使って留学するため仕事に戻ることを考えてはいるが、研究を続ける可能性もゼロではない。」というように答えた。先生も「実は私も大学院に行った後、実務の世界に戻るつもりだったのだけど、思いのほか研究が面白かったし、教えることも自分に合っていたので、なんだかんだ大学に残ってしまった。あなたもそう感じる可能性ありそうね。」ということだった。
トータル1時間程度のミーティングだったが、直接会って話をしてよかったと思う。Skypeならここまでのコミュニケーションにはならなかったような気がする。先生とは相性が合いそうな感じがしたし、何よりも先生の経歴が私と重なることが心強く感じた(それがこの先生に目を付けた理由の一つでもある)。また、先生の方も私に親近感を持ってくれたように思った。研究テーマのすり合わせなら、事前にメールベースで行ったり、コースに入った後に詰めることもできるが、こういったお互い指導教官と学生として3年間組んでいけるかどうかを確かめるためには、実際に会って話すのが一番。びっくりするくらい飛行機代が高いゴールデンウィークに、家族も巻き込みながらわざわざ南半球に足を運んだだけの収穫はあったと思う。